ソノケミストリー(Sonochemistry) 最終更新:2023年1月18日




図1. 超音波キャビテーションの半径運動


 超音波とは、ヒトの耳に聞こえない周波数20 kHz以上の音のことを指します。強力な超音波を液体に照射すると、超音波キャビテーションと呼ばれる直径数10 μmの微小気泡の発泡現象がみられます。この現象は、周波数20 kHzから数 MHz程度の超音波音場下で観察されます。この気泡は、超音波音場の周期的な圧力変動に伴い、膨張と収縮を繰り返します(図1)。膨張した気泡が収縮する際には、気泡内部の気体が一気に圧縮され、ホットスポット(Hot spot)と呼ばれる局所的な超高温・高圧状態が生み出されます。このホットスポットの内部・周辺では様々な面白い現象が起きることが報告されており、これをうまく利用すると種々の化学反応を促進することができます。この超音波キャビテーションによる化学反応の促進効果を利用するプロセスは「ソノプロセス」と呼ばれ、ソノプロセスを理解するための研究分野を「ソノケミストリー」と呼びます。

 例えば、ホットスポットの中に取り込まれた分子は、超高温場(~数1,000 K)にさらされ熱分解されます。その時に、例えば水分子の場合は、水素ラジカルやヒドロキシルラジカルなどに分解され、これらのラジカル種は様々な化学反応を引き起こします。同時に、気泡の圧壊時には、気泡内部は超高圧(1,000 気圧以上)となり、周囲液体との圧力差により衝撃波が発生し、力学的な効果ももたらします。音場条件を整え、気泡を強力に圧壊させた際には、ホットスポット内部から「ソノルミネッセンス(Sonoluminescence)」と呼ばれる発光現象も観察され、その発光スペクトルを解析すると気泡内の瞬間的な高エネルギー状態について情報を得ることができます。

 眼鏡等の超音波洗浄機に代表されるように、ソノケミストリーの代表的な作用は分解反応の促進です。化学工場などで産出された有害物質を超音波で分解し、無害化するなど重要な役割を果たしている例もあります。一方で、各種化学合成過程や微結晶の生成など、ものを作り出す効果があることも発見され、応用するための研究と同時に、そのメカニズムを解明するための研究も進められています。

 私たちの研究グループでは、変性した蛋白質が作る結晶に似た凝集体であるアミロイド線維の核形成反応の超音波による促進現象の機構解明、並びに、臨床診断への応用を目指して研究を行っております。

参考文献

  • 音響バブルとソノケミストリー 日本音響学会 編 (著者:崔 博坤・榎本 尚也・原田 久志・興津 健二)


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