電磁場解析の続き

 

(15)この図は,光波長と膜厚とを変化させた電磁場解析の結果から,隔壁終端部の電界強度を取り出し横軸に光波長を取ってグラフ化しています.重畳されているグラフごとに膜厚が異なります.膜厚よりも光波長の違いが電界強度へ及ぼす影響が大きいようです.

(17)この図は(16)の結果より,隔壁終端部でのSPP集中輝点の空間広がりを,図中イラストの赤線に沿って描きました.励起波長の違いで広がりが異なり,一番電界強度が強い輝点の場合,8nmFWHMの広がりを持ちます.

(19)この図は,開孔において,赤部で流入している光パワーと,青部で流出している光パワー,そして両者の比を示しています.光波長によりSPP伝搬効率が異なるので,図の黒線が示す「光パワー透過率」が異なります.

(21)COMSOL(すなわち有限要素法)では,電磁波の伝搬モード解析を行うことができます.上図が用いたモデルで,銀ファイバの中央に(19)までの解析で用いた2開孔が設けてあります.奥行きは無限遠です.

(23)(22)の右下のモードについて電界,磁界の開孔内部の分布をある時刻で見ると,上図の様になっています.照射する光の電界が開孔並びに垂直であるため,開孔内部の電界は上下に振動する様子が矢印の向きで分かります.

(25)この図は,励起波長,開孔サイズを固定した場合の,伝搬モードへの隔壁厚さの影響を示しています.3次元解析と対応するモードでは,隔壁厚の変化が減衰長および伝搬波長を大きく変化させます.

(27)一連の3次元シミュレーションとモード解析から,開孔内を伝搬するSPP波の特性および開孔出口でのSPP集中輝点の電磁場の振る舞いとが分かってきました.今後の光ファイバを用いた具現化への参考としてゆきます.

(29)この図は,2開孔構造との比較のため行った,隣接する直径100nmの銀粒子における電場増強の様子です.粒子の並びに平行な方向の電界を有する光波により,粒子間の狭ギャップ中に強電界を誘起できます.

(16)この図は隔壁厚さが非常に小さな場合で,(15)では影響の少なかった膜厚の影響が大きくなります.理由は,隔壁を伝搬するSPP波の波長が短くなり,膜厚変化が干渉効果に顕著に効くようになるからです.

(18)この図は,図中イラストの赤線方向の電界強度変化が光波長によって異なる様子を示しています.色の違いは薄膜表面からの距離の違いです.近接場なので,薄膜表面から離れると急激に減衰しますが,光波長により減衰長が違うことが分かります.

(20)2開孔構造は,長さは非常に短いですが,銀に開いた空洞の導波路と見ることができます.そこで,光ファイバ内部の伝搬を調べるモード解析を上図の断面を持つ無限遠の導波路について検討しました.

(22)TE波とTM波との線形結合を用いるCOMSOLでのモード解析から,伝搬モードが実効複素屈折率として求められ,上図の様な電界分布をすることが分かりました.右下の解が3次元電磁場解析の結果に対応します.

(24)(22)で示したモードの減衰長,伝搬波長を,励起光波長や開孔サイズを変えてプロットすると上図となります.開孔サイズが大きいと,励起波長に応じて,モードの減衰長,伝搬波長が大きく変化することが分かります.

(26)この図は,3次元解析に用いたモデルのxz断面のうち開孔周辺の拡大図です.励起光は平面波であり,図中に示す様に電界強度=1V/mで,これは光強度=133nW/cm2にあたります.PMLは完全整合層=完全吸収層です.

(28)今後,開隔壁無しで開孔同士をギャップで繋いだ「ボウタイ型」のシミュレーションも行ない,隔壁を有することの優位性を確認します.また,開孔構造の応用として,四重極子を励起できる構造の提案を目指します.

(30)銀粒子間には強電場が誘起できますが,外部とのアクセスに難があります.2開孔構造では,開孔出口=金属膜の表面にSPP波の流れの端があることで,薄膜表面に強電界部分を露出させることができます.(18)参照

2開孔構造が実現できると...実は...既述の開孔形状より,2開孔を隔てる隔壁周辺にしかSPP波は励起されない上,開孔並びに平行な偏光の励起光ではSPP励起,開孔端での集中電界の発生はきわめて弱くなります.また,(15)〜(19)の結果も含めると,仮にランダム偏光の白色光を2開孔構造へ照射しても,透過波長が選択される上,開孔並びに垂直な偏光の輝点が隔壁端部に創成されることになります.(29)(30)の粒子ペアは昨今隆盛を極めていますが,透過率の低い基板上に並べた場合,励起光は必ず粒子側から当てなければなりません.この点,2開孔構造は,SPP起因の輝点が創成される金属面の裏面に光を照射する上,膜厚が鏡面並みに厚くても輝点を形成できるので,蛍光観察などでは迷光対策が容易です.膜が厚くてもよいということは,厚膜に分子や原子をトラップするための落とし穴を設け,その底に2開孔構造を設けることも可能です.いかがです?