3次元有限要素法による電磁場解析

2009年秋頃から,有限要素法をベースとした3次元電磁場解析を始めました.参考文献で知ったCOMSOL Multiphysicsを導入し,光の電磁場解析用にRF moduleを付加して,金属薄膜に設けた2開孔構造と照射光との相互作用や開孔内の電磁波(表面プラズモンポラリトン (Surface Plasmon Polariton; SPP))の伝搬,薄膜裏面において透過SPPが創成する点光源の特性を調べながら,SNOM用のプローブ先端,SPP導波路,蛍光分子の高効率励起源,などへの応用を検討しています.以下の2つのリンクは,2開孔内のプラズモン伝搬の電磁界分布アニメーションです.プラズモン波は画面に垂直な方向に伝搬しています.図の座標軸の単位は[m]です.2開孔の曲率の小さな角の周辺(アニメーション中央)に電磁波の集中が起こっています.矢印は電場,磁場の時間変化です.

 

2開孔内の電界分布の時間変化

2開孔内の磁界分布の時間変化

以下は,COMSOLによる計算結果の3次元表示で,電界分布を表しています.ガラス板上の膜厚400nmの銀膜に上記の2開孔を貫通させ, 照射するレーザー光を310〜700nm(step10nm)と変化させた際の,電界分布です.レーザー波長の増大に伴い,アニメーション下半分の定材波の波長が伸びてゆきます.この結果,開孔内,開孔の出口での電界強度が変化します.

(2)研究の最終目的の一つは,2開孔構造において創成できた高輝度微小光源を近接場光学顕微鏡のファイバプローブ先端に設置して,走査性能の大幅な改善を行うことです.

(4)隔壁両側の,曲率半径が小さなV溝部分では,上図の左半分に示す様な,V溝プラズモンの励起,伝搬とほぼ同様の現象が起こっていると考えられます.図の右半分は,金薄膜に設けられた丸穴ペア周辺のSPPの励起状態です.

(6)電磁場シミュレーションには,COMSOL Multiphysicsを用いており,開孔内部のSPP伝搬状態やSPP伝搬モード解析などを行っています.Core i5 CPUを有するパソコンに16GBのメモリを搭載して計算しています.

(8)ガラス,銀薄膜,2開孔をモデル化し,パソコンメモリの許容範囲内で細かく四面体要素に分割すると,上図の様に境界面には細かな三角形要素が生成されます.上図右は,モデルの対称性を考慮した1/4部分のモデルです.

(10)この論文は,(8)におけるモデル体積の縮小にために用いた対称面を用いるにあたり参考にしました.電気壁,磁気壁という,電界や磁界についての対称面を使い,上図右のように計算領域が縮小されています.

(14)開孔に照射する光波長を変えると,隔壁部分に沿って伝搬するSPP波の波長が変わり,その隔壁端での反射率が変わるので,結果として生じるSPP定在波の様子が変わります.このため,隔壁終端のSPP強度も変わります.

(12)隔壁の厚みが異なると,この図の様に,V溝部分を伝搬するSPP波の状態(定在波が形成されている)が相互作用の結果,変化します.開孔出口でも,隔壁が厚いと輝点が1つにならず2点に分割して生成されてしまいます.

(1)2010年秋の応用物理学会 近接場光学セッションでの発表スライドを以下,示します.3次元電磁場シミュレーションに加えて,光ファイバなどに使われる導波モード解析の結果も含んでいます.

(3)方形2開孔構造はこの図のように,正方形をベースとした,角の丸まった穴のペアです.開孔間の隔壁にあたる部分の角だけに,曲率半径の小さな丸みを付けており,その結果,隔壁部分にのみSPPに起因した電磁場集中が起こります.

(5)本研究では,シミュレーションにより最適な2開孔構造を見つけ出し,その後は,集束イオンビーム(FIB)加工により,実際にファイバプローブ先端に2開孔構造を製作し,SNOM装置として働かせて走査特性を実証します.

(7)3次元電磁場解析では,上図の様にモデル領域を四面体要素により伝搬する電磁波の波長よりも十分細かく分割します.特に,隔壁周辺は,SPP波が金属面にへばりついて伝搬することが予想されるので,細かく分割します.

(9)電磁場計算では,マクスウェル方程式が必要とする物性値(複素誘電率)をモデルの各部に与えます.上図は,銀薄膜の複素屈折率の光波長依存性のグラフです.青線が実部,赤線が虚部の数値です.

(13)この図は1/4モデルの計算結果をxz平面で切った断面図です.モデル下部は石英ガラスなので,屈折率により短くなった光波が伝搬反射して細かな定在波を形成しています.開孔の下部では,広範囲に電磁場の浸入が見えます.

(11)この図の青色部分が,1/4モデルです.XY方向に青い部分のみを取り出し,計算しました.領域を必要最小限にしてメッシュ分割密度を上げていますが,開孔周辺以外は電磁場がないので特に問題ありません.